第50章 悋気
「あぁそうだナナ、ケイジ・コリンズを覚えているか?」
団長室で執務に当たっていると、エルヴィン団長から声がかかった。
「はい、モブリットさんやゲルガーさん、グンタさんと同じく一般兵で戦ってくださった方です。」
「さすがだな。彼も入団することに決まった。手続きを進めてくれるか?」
「そうなのですね!それは嬉しいことです。承知しました。入団日はいつに?」
「―――――そこだけはまだ調整中だ。追って伝えよう。」
私はエルヴィン団長から書類を受け取った。
一般兵の中から抜きんでた5人を調査兵の訓練に編入させていた、内4人が生きて帰り、また調査兵団に戻ってきてくれた。―――――そう、ダンさん以外は。
親しくしていた人が、明日死ぬかもしれない事実を、まざまざと実感した。
弱気になってはダメだ。
邪念を飛ばすように軽く頭を横に振って執務を再開する。
「――――それから、今夜幹部を集めてそこでも話すが、君が提案していたユトピア区から北エリアの調査を2月に実施することが決まった。ただ、北だけでなく小隊を北・西・東と3か所から出す。」
「それは……嬉しいです、採用頂けたなんて。」
「ああ、おそらくそこまでの巨人の襲撃はないと思っている。ナナ、行けるか?」
「はい。」
「即答か、頼もしいね。」
エルヴィン団長がふっと笑う。
「―――――私の場合、最も必要なのは経験だと思うので………。今度こそ、前回のように無様に泣き崩れたり、自分を見失ったりせず――――――やるべきことをやりたいです。」
「なるほど、自分の弱さを知った者は強くなる。良い傾向だ。期待しているよ。」
怖くないわけではない。
また見たくもない光景を目の当たりにするのかもしれない。
それでも自由を求めて戦うと、そう決めたのは自分だから。