第50章 悋気
「心臓に………悪いです………。」
「………嫌か?」
「………嫌悪ではないですが、歓迎はしていません。」
「的確な表現だな。」
エルヴィン団長はフッと笑った。
「――――ただのエルヴィン・スミスとナナの時間は終わりだ。帰ろうか、我々のいるべき場所へ。」
「……はい。」
私たちは身支度を整えて、朝のうちに兵舎へと発った。
この一夜でエルヴィン団長との距離がまた近くなった。
私の中をじわじわと侵食するその感覚に比例するように、もっと知りたいという想いが静かに染み出てくる。なのに、どうしてもリヴァイさんを諦められない。
私はいつからこんな強欲でズルい女になったのだろう。リヴァイさんが守ってきてくれた、純真で無垢な少女は姿を消してしまったようだ。
兵舎に帰ってからは忙しかった。
101期生の受け入れだ。昨年の今ごろはウォール・マリア奪還計画のため、一般兵も含めて大量の新兵を受け入れて訓練にあたっていたっけ。まるでつい最近のことのように思い出される。
あれから確かに時は経ったと実感させてくれたのは、彼らが自由の翼を背負っているという事実。
「モブリットさん!!」
「あぁ、ナナさん、お疲れさまです。」
「ハンジさんの分隊に配属されたと聞きました。ふふ、ハンジさんが言ってたのはこのことだったんですね。」
「ハンジさんが?」
「はい、エルヴィン団長に……モブリットさんを自分の隊に欲しいと。内緒ですよ?」
「そうなんですか……。」
モブリットさんは照れたように嬉しそうな笑顔を見せた。モブリットさんはハンジさんの側にいれば、本当の自分でいられる。そんな気がする。これからの彼の日々が、愛すべき人生になればいいと願った。