第5章 絶望
避難所の様子は、絶望的だった。
十分とは言えない場所に押し込められ、十分な治療もされず、遺体と同等に地べたに転がされている怪我人や病人と、それに縋って泣き叫ぶ人々。想像通り、駐屯兵団だけでは全くと言っていいほど手が回っていなかった。
俺はそこで指揮をしていた駐屯兵団の男に状況を確認しようと声をかけた。
「おい、状況を教えてくれ。……俺は調査兵団のリヴァイだ。」
「……調査兵団?」
「ああ、壁外調査から帰着したらこの騒ぎだ。応援の必要性を感じたため次期団長の指示で視察に来た。」
「ああ………俺はバッカスだ。……このトロスト区の駐屯兵団所属だ。」
「今ここにいる駐屯兵団はトロスト区とシガンシナ区の奴らだろう?にしちゃあ随分少ねぇが………。」
「………シガンシナ区の駐屯兵団は、ほとんどいねぇよ……。ほら、あそこの……」
バッカスは遺体の中にしゃがみ込み、ブツブツと何かを口にしながら頭を両手で抱える廃人のような男を指した。
「シガンシナ区から逃げて来られた団員はほんの数名だ。……しかもあの通り、ほとんど兵員としては機能しない。無理もない。目の前で、守るべき人間が何百人と死んだんだ……。」
「………避難民は、これで全部か?他の場所にも収容しているなら場所を聞きたい。」
「いや、これで全部だ。ほとんどが………巨人の餌になったってことだ………。」
バッカスは目を伏せた。
「……そうか。」
「………俺たちは取り急ぎの視察団だ。今団長は王都の参集に向かっている。戻り次第指示を仰ぎ、応援が必要なら可能な限り派遣しよう。」
「それなら上と話してくれ。今ここにいないが、じき戻ってくる。小一時間程待てるか。」
「……わかった。」
「戻ったら声をかける。悪いな……」