第49章 夜会
「―――――おや、エルヴィン。その麗しい女性は誰だね?」
あらゆる人に声をかけれられていたエルヴィン団長は、いつもにこやかに握手をするのに、その人物に声をかけられた時だけは心臓を捧げる敬礼をした。
私も倣って、即座に敬礼をする。
「ザックレー総統。」
その言葉に背筋が伸びた。
調査兵団はもとより、駐屯兵団、憲兵団の全てを取り仕切る存在である、ザックレー総統。その人だ。
名前には聞いたことがあったが、お会いするのはもちろん初めてで、動揺を隠せずにいた。
「―――――ご紹介が遅れました。調査兵団で団長補佐官を務めている、ナナ・オーウェンズです。ナナ、ご挨拶を。」
「はい。調査兵団団長補佐官兼医療班のナナ・オーウェンズと申します。以後、お見知りおきください、ザックレー総統。」
敬礼をした後にまっすぐに見つめたザックレー総統は、丸縁の眼鏡をかけ、威厳ある白髪に髭をたくわえた紳士だった。
穏やかに見えてその眼光は鋭く、私は向けられた視線が棘のように刺さるように感じた。
ごくりと生唾を飲むと、ザックレー総統が柔らかく微笑んだ。
「―――――なるほど、オーウェンズの令嬢が異例の調査兵団入りをしたのは聞いていた。それがその彼女か。いや、実にありがたい話だ。」
「―――――滅相もございません。この心臓を捧げ、共に戦わせて頂けることを誇りに思います。」
「ああそれにナナ、ウォール・マリア奪還作戦でも医療提供を君の生家に世話になった。今日は父上はおいでかな?」
「はい、先ほど見かけました。」
「挨拶がしたい。取り持ってくれるか。」
「喜んで。ご案内いたします。」
エルヴィン団長に目くばせをすると、頼んだ、と頷いてくれた。
私はザックレー総統と父を引き合わせ、会話が始まったのを見届けて会釈をし、その場を去った。一介の兵士の前で話せないような話もあるだろうと、そう思ったからだ。
元の場所に戻ってもエルヴィン団長の姿はなく、フロアを見渡しても、エルヴィン団長の姿を見つけられなかった。
私は不安になり、その姿を探してバルコニーに出た。