第5章 絶望
「いえ………そんな、滅相もないことです。こちらこそ、ご丁寧にお迎えまで下さり、ありがとうございます。ナナ・オーウェンズと申します。」
「今日は、お互いの事を知る時間にしたいと思うのです。………お帰りになる頃には、あなたのその警戒も少しは解いてもらえるよう、善処します。」
ダミアンさんはにこっと笑った。私は言葉を返さず、手を引かれて馬車に乗った。
ダミアンさんに連れられ、昼食をとろうと豪勢なレストランで食事をしていた。
ダミアンさんは、気乗りのしていない私に気を遣って、会話をリードしてくれていた。以前夜会で会った虚栄心まみれの男とは違い、そこに彼の人柄を見た。
悪い人ではない。むしろ、良い人というべきだろう。
だけど私にとっては、それすらどうでも良いことだった。こんな豪勢な食事をしている間に、ろくに食べられなくて飢えて病気になっていく子供たちがいる。微々たる事でも、私にできることはあるのに。
「………考え事、ですか?」
「え……?」
私が顔を上げると、寂し気な目でダミアンさんは私を見つめた。
「心ここにあらず。ずっとそんな様子ですよ。」
「ご、ごめんなさい………。」
「いえ……、そろそろ、出ましょうか。場所を変えましょう。」
食事が進まない私を見かねてか、ダミアンさんが場所を変えようとレストランから連れ出そうとした時、街がざわめいた。
街中に、ビラが舞っている。