第47章 繙
今年最後の日、私は約束通りたくさんの書物を持って団長室を訪れた。
扉を開けると、そこには前髪を降ろしてラフなシャツを羽織ったエルヴィン団長の姿がある。私もまた、今日は私服だ。この日と明日だけは、執務ではないから。
「―――――やぁナナ。待っていたよ。」
エルヴィン団長は微笑んで歓迎してくれるけれど、ほんの少し歩みが滞る。
私は意を決して、部屋に入る前にその言葉で先手を打つ。
「あの………、大変……思い上がったことを申し上げますが……っ…………!」
「ん?」
「な、にも……っ…………しないと、約束して頂けますか………。」
「―――――なにも、とは?」
「………っ、この前のような………っ…………ことです…………!」
「…………あぁ―――――それは、どうかな。」
エルヴィン団長は意地悪に笑う。
「―――――……約束頂けないなら、この約束もなかったことにして頂きたいです…………!」
「――――――君が私に火をつけなければいいことだし、嫌なら拒めばいいだろう?」
「―――――そんな簡単に、拒めな―――――……っ……!」
言い分をぶつけて睨みあげてみても、なんの効力もなく悪戯な眼差しで見下ろされる。
「――――――今日は執務じゃない。兵服も着ていない。団長だからなどという遠慮も必要ないし―――――……力を以って無理に、というのはしないと誓おう。簡単に拒めないという問題はクリアしたはずだが、あとなにか問題が?」
「―――――……っ………。」
「―――――あとは君の気持ち次第だろう?それとも――――……そんなことで気持ちが揺らぐほど、リヴァイへの想いに自信がないのか?」
エルヴィン団長がくすっと笑う。その様子にカッとなり、大きくその言葉を打ち消した。
「そんなことありません……っ……!」
「なら問題ないな。―――――どうぞ?」
「――――………。」
エルヴィン団長が中へ誘い込むように扉を大きく開けた。
おかしな意地と見栄とでその挑戦を受けて立つかのように、団長室に歩を進めた。