第45章 一歩
「――――ナナ、怪我人か死人が出る。覚悟しておけ。―――――先ほどのように取り乱すな。」
「はい。」
エルヴィン団長の言う通りだった―――――――リンファの班のジェロンさんは巨人に捕食され、リンファとミケさんで討伐は果たしたものの、イルゼは腕を骨折して帰ってきた。
サッシュさんとオルオは軽傷だったが、同じ班のアルトさんは巨人に掴まれた時に全身の骨を砕かれていて、辛うじて命はあるものの再起不能の重症だ。
ウォール・ローゼの門が開き、そこに迎え入れられてすぐに、アルトさんとイルゼの骨折の処置をし、サッシュさんとオルオの手当をした。
たった数時間の小規模遠征だとは思えないほどの、疲労と胸の内の苦しさを覚え、重い足取りで兵舎に戻った。
部屋に戻った私は、また嘔吐した。
ダンさんの変わり果てた姿と――――――アウラさんの最期。
そしてアルトさんが骨を砕かれた時のあの絶叫。
全てが頭から離れない。
リヴァイさんが私を頑なに外に出したくなかった理由を、今頃身をもって理解した。
もう吐き出すものすらないのに、胃を握りつぶされるような感覚で何度も胃液を吐いた。
その背中を、リンファがさすってくれた。
「―――――辛い、よな………。」
私の事を思いやってくれるリンファこそ――――――自分の班のジェロンさんを、目の前で食われたのに。
私はリンファの事を強く抱きしめた。
「ごめん―――――私ばっかり辛いんじゃないよね。リンファも、辛いよね……………。」
「―――――あたしが、もっと、強かったら――――――。」
リンファの涙とともに零れたその言葉を、否定する。
「違う、違う――――――……誰も、悪くない……っ……!」
灯りもつけないその部屋で、私たちはお互いの身体を支え合って泣いた。まるでアルルの最期を聞いた、あの日のように。