第45章 一歩
「―――――ナナが立体機動も、体力づくりも頑張ってきたから今ここにいるんだ。やれることをやって、諦めなければ――――――絶対また帰って来れるから。気を強く持って、行っておいで。」
いつもより落ち着いた、説得力のある口調でまっすぐに私を見つめて、ハンジさんはその不安を拭ってくれた。
大丈夫だと、そう思える。
「はい!!」
ハンジさんは笑って私の頭を撫でて、次の兵士に声をかけに行った。一人ひとりの不安を拭ってくれる、そんなところが大好きだ。
ちら、と目をやると、リヴァイ兵士長も一人ずつに声をかけているのがわかる。
ペトラが声をかけられ、頬を赤くしながらわたわたと答える様子が目に入る。
エルヴィン団長が言っていた。
前のリヴァイさんだったら、そんなことはしなかったのかもしれない。彼の中で大切にしたい人が増えていくなら、そんなに嬉しいことはない。
一人ひとりに声をかけ、リヴァイさんが私のところに歩み寄ってきた。
「―――――ナナ・エイル。」
「はいっ………。」
「装備の点検は、してんだろうな。」
「ぬかりなく。」
リヴァイ兵士長が足元から私の装備を確認しながら、その目線が目から耳に移された瞬間、ごくわずかに口元が笑ったように見えた。
「お前の最重要任務は、疫病に関する情報の収集と観察・記録だ。―――――他の誰にもできない。頼んだぞ。」
「はい。」
ただただそれだけの短いやりとりを終えて、私の横を通り過ぎる瞬間、指先が耳たぶの石に触れた。
「―――――待ってる。生きて帰れよ。」
必ず、生きて帰る。
強くそう暗示をかけられたように、手の震えが不思議と止まっていた。