第42章 急場
「――――――そういえば、ナナは律儀にお前にネックレスを返したそうだな。」
「あぁ、聞いたのか。」
「――――――ザマアミロ。」
私の返答にリヴァイはくくっと小さく笑って少年のような目を向けた。――――――初めて、この男の笑う顔を見た。
ゾクゾクした。
相手に不足ないとは、このことだ。
「酷いな、まぁまぁ落ち込んだぞ?キスも拒まれたしな……。」
「―――――あ?てめぇなにやってんだよ。拒むに決まってんだろうが、ナナは俺の女だぞ。」
「いや、あまりに可愛くてついな。」
「あぁまぁそりゃわかる。―――――犯したくなるよな。」
「それは犯罪だ。」
「隙あらば唇を奪おうとしてるてめぇも大差ねぇよ。」
何の会話だこれは。
よくわからない悪態をつき合いながら、ふっと笑う。
意味もなく、薄っぺらい、無益な会話。
だが不思議とそれが心地いい。
「―――――さて、話は終わりか?」
「―――――あぁ。」
「それならついでに壁外調査の計画を立てるのを手伝え。お前の任務遂行力と計画力は群を抜いてる。一緒に構想を練って欲しい。」
「ちっ………俺は自分が行かねぇ計画を練るのは嫌なんだよ。」
そう言いながらも、いつもながら感心するほどの計画案をいくつか出してくれる。本当に頼もしい存在だ。
小一時間話して、おおよその見通しがついたところでリヴァイを解放する。
「――――――助かった。遅くまで悪かったな。」
「あぁ、もうこんな時間か………じゃあな。あとは好きにやれよ。」
リヴァイは立ち上がって背を向けた。その背中に、一つだけ言葉をかける。
「―――――リヴァイ。お前は私にとって唯一無二の存在だ。」
ぴた、と歩みが止まる。
「――――――うるせぇよ。」
リヴァイが振り返り、いつも通りの悪態をつく。
だがその表情はどこか柔らかかった。