第42章 急場
「―――――何見つめてんだ、おっさんに見つめられても嬉しくねぇよ、気持ち悪りぃ。」
「はははっ!!」
思わず大きく笑いが零れた。
まるで野生の猛獣が自分に気を許したかのような、不思議な達成感と高揚感。
「あ?何がおかしい」
「―――――いや、約束する。生きて帰る―――――お前の最愛の女性を必ず守る。」
「―――――ついでに横取りする寸法かよ。」
「まぁそれも虎視眈々と狙ってはいるが。」
「―――――クソが………こっちは気が気じゃねぇよ。」
リヴァイは小さく舌打ちして、天を仰いでソファに大きくもたれかかった。
「お前が自分が同行しない壁外調査にナナを出すことをやすやすと了承したからか、ナナは少し動揺していたぞ?可哀想に。もう少し食ってかかると思ってたんだが?」
「―――――壁外に出るのはあいつの夢の一歩だったしな。それに俺がいなくても―――――――お前が行くなら問題ないと思った。」
「………それは最大級の賛辞として受け取っておこう。」
いつだったか。
リヴァイは壁外に出たいというナナの意志を汲んでやらないのかと問うた時、『死なせるくらいなら、そんなもの無視してやる』と言った。
その時からは考えられない心境の変化だ。
ナナを、守るだけの対象から意志を尊重し共に生きる対象として認識し始めたのか。
がむしゃらに縛り付けて閉じ込める愛し方しか知らない男から奪い取るのは簡単だ。
雁字搦めにされればやがて息が詰まり、逃げ出したくなる瞬間がやってくる。その時にタイミング良く手を差し伸べてやればそれでいいのだから。
これは――――――思ったよりも手ごわい相手になりそうだ。
私は沸き起こる興奮を見せないように薄く、笑った。