第42章 急場
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その日の執務を終えてナナを部屋に帰すと、しばらくしてから扉が鳴った。
―――――――来ると、思っていた。
「入っていいぞ。――――――リヴァイ。」
リヴァイは不機嫌そうに眉をしかめて部屋に入った。
「来ると思ったよ。」
「…………お前のそういうところが、気に食わねぇんだよ。」
「―――――同時に、こういうところを信頼してもらえてるんだと思っているんだが?」
「―――――言ってろ。」
リヴァイはソファにドカッと座ると、脚を組んで怠そうにこちらに顔を向けた。少しの沈黙のあと、口を開いたのはリヴァイだった。
「―――――死ぬなよ。」
不覚にもリヴァイの言葉に驚いた。
「ナナを死なせるな、じゃないのか?」
「―――――……お前が生きてりゃ、ナナを守り切ることぐらい―――――分かってる。だからお前が生きて帰ること、それはナナが無事に帰ることと同義だ。」
驚いた―――――――リヴァイの変化に。
今までこの猛獣のような男の手綱を取るのに、随分苦労した。
調査兵団に入った時には気に入らない人間を片っ端から病院送りにし、何度理性的に話し合っても完全に理解させることは難しく、ようやく団長という力を以って多少なりとも従わせることができるようになった。
それが、ナナが来てからこの1年で驚くべき変化だ。
誰の事も信じず、心を許したごく限られた者だけを守るために自ら刃を振るう選択肢しか持ちえなかった男が、今自分の最愛の女性を私に預ける判断をした。