第40章 甘露
それからナターシャとゾーイと交代するようにエミリーがやってきて、これまでの話を一通り聞き、これからどうしていくかを整理した。
調査兵団の疫病の話が一段落した時、エミリーがおずおずと口を開いた。
「………あの、ロイ君は………大丈夫でしたか………?」
「ああ、お花まで送ってくれて、ありがとう。うん、お蔭さまでもう大丈夫だよ。今は王政に建ててもらった疫病に対抗する薬の研究施設で頑張ってる。」
「そう、ですか………!」
「ロイね、入院している間も部屋に飾る花一つでもうるさくって………何度も『この花嫌い』って言われたんだけど……エミリーの贈ってくれた花は、好きなんだって言ってた。」
エミリーは、ほんの少し嬉しそうに笑った。
「ロイ君が気に入るのは、いつも深い青を宿した色の花だったので……。『姉さんの、瞳の色だ』って、言ってました。」
「………ロイも同じなのにね。」
私が笑うと、エミリーもつられて笑った。
「エミリー、あなたに御礼をいくら言っても足りない。」
「えっ………!」
「調査兵団のみんなを守ってくれて、ロイの心を支えてくれて、本当に………ありがとう。」
私は深く頭を下げた。
エミリーはあわあわとものすごく慌てた様子で私を覗き込んだ。
「や、やめてくださいそんな……っ……!私の犯した罪に比べたら、そんな、ことっ………!」
「……誰だって間違うもの。エミリーは立派に挽回したじゃない。すごいことだよ。」
私がエミリーの頭を撫でて笑うと、エミリーの目から大粒の涙が零れた。
「もし………っ………、もし、赦されるなら………っ………、このままナナさんの側で………っ、ロイ君を想いながら戦っても、いいですか………っ……?」
「―――――もちろんだよ。私の大切な弟を想ってくれて、ありがとうエミリー。」
―――――ねぇロイ。
こんなに愛してくれている人がいて、私たちはとても幸せ者だ。
それを当たり前と思わず、精一杯大切にしていこう。
今の私たちなら大切にできるから、きっと。
私は遠く王都で病と闘う弟を想った。