第40章 甘露
「情報というのは、一部の人間しか知りえない状態が一番効力を発揮する。周知の事実になってしまえば、それは効力を大きく失う。」
「…………それはどういう………。」
「―――――もともと今後の王都への招集は、全て補佐官である君も共に来てもらおうと思っていた。」
「――――――えっ………。」
「君は大変優秀だ。君が補佐になってくれてから仕事が格段に捗っているし、王都での会議諸々は資料の準備やお偉方の機嫌をとるのも大変でね。―――――君に、手伝ってほしい。」
「は、はい………。でも、会議に同行するだけで、エルヴィン団長がその………私に好意を寄せているなんて、周知されないですよね……?」
「――――――されるさ。勝手にね。」
エルヴィン団長はニヤッと笑った。
「私は女性との噂は一切立たないようにしてきた。王都への招集にも基本的にハンジやリヴァイ以外とは出かけない。その“カタブツ”の私が、急に毎回毎回、それは見目麗しく優秀な女性を連れて来たら連中はどう思う?」
「……………。」
「『調査兵団の団長はあの麗しい補佐官に入れ込んでる』あっという間に、噂の出来上がりだ。」
「……………。」
「―――――まぁ、噂とはいえ事実なんだが。」
怖くてたまらなかった私の失態を、エルヴィン団長がまるで悪戯でも考えるように生き生きと、さも問題ないかのように操っていく。
ああ、この人には敵わない――――――心から感服するしかなかった。