第40章 甘露
「はい、でも今ようやく少しずつ家族の蟠りが溶けようとしていて、―――――疫病を弟と一緒に乗り越えられたのが大きかったかもしれません。弟は研究室で特効薬の開発を続けていて、そこに新しい居場所を見出そうとしています。私が調査兵団に戻ることも、了承してくれました。」
「―――――そうか、それは良かった。」
「それともう一つ――――――エルヴィン団長には、謝っても謝り切れないことがあります………。」
「……どうした?」
言うのが怖い。
でも言わなければ。
あの切れ者で権力を持つダミアンさんが、いつ調査兵団に何を仕向けるかわからない。
「実は――――――例の、ライオネル公爵が…………私との結婚をまだ、諦めてはくださらず――――――。」
「………ほう。」
屋敷に軟禁され、ベッドに組み敷かれた時に翼のネックレスが目に触れ、引きちぎられそうになって思わずエルヴィン団長の名前を口に出してしまったことを、全て正直に話した。
「――――――本当に、申し訳ありません………。こんな謝罪で済むことではないと、思うのですが……。」
私は改めて深々と頭を下げた。ところが、エルヴィン団長の反応は思ってもみないものだった。
「―――――ネックレス、家に戻ってからもつけてくれていたのか。」
「え?」
「嬉しいよ。」
エルヴィン団長は微笑んだが、私は戸惑った。
調査兵団の弱点を一つ晒したようなものなのに。
なんてことをした、と責められる覚悟だったのに。エルヴィン団長はただニコニコと笑っている。
「あの、私がとんでもないことをしてしまったのは分かってます……お気遣いは不要ですので、お咎めは受けます……。」
「いや、特に問題はない。私が君に好意を寄せているという情報が出回るのが、多少早まっただけだよ。」
「…………?」