第39章 認容
リンファは優しく微笑んで、私の頭を撫でてから部屋を出た。私はベッドから起き上がりもせず横着に、布団の中からリンファを見送った。
リンファの苦しみは、私とは比べ物にならないかもしれないほど重いかもしれないけれど、ほんの少し……その一端を理解できた気がする。
身内と繋がったことによるこの己への嫌悪感と、自分がまるで汚れきった、禁忌を犯した存在になったような感覚。
それを周りにいつバレてしまうかもしれないと怯える日々。
ロイを責めたいわけじゃない。
でも、私はどうやっても前の私と同じではいられなかった。
例えばそれが弟じゃなければ、私はまだ少しでもマシに嘘をつけたのかもしれない。
ぼんやりとした頭で、いつも肌身離さず持っていたリヴァイさんのクラバットを取り出し眺める。
染み込んで取れないロイの血の跡。
私の身体と同じ。
もうそこに姿はないはずなのに、いつまでもその陰にとりつかれている。
「髪に、結ってなかったのも――――――原因の一つ、かな………。」
私はゆっくり起き上がり、荷物の中から小箱を取り出した。
中には、翼のネックレスが光っている。
リヴァイさんは、どこでこのネックレスの存在を知ったのだろう。リヴァイさんの前で、一度だってつけたことはないのに。
「―――――そもそも、受け取ってはいけなかったんだ。」
ポツリと呟く。
私が曖昧に受け取って、断り切れず身に着けたから。
リヴァイさんを傷付けることになってしまった。
小箱を握りしめて、ベッドの脇の引き出しに戻した。
1人の部屋で、ワーナーさんから継いだ歌を歌う。
リヴァイさんのために覚えた歌。
いつまでも子供のように、純粋に愛し合うだけの関係ではいられない。
世界も、私たちも、変化していく。
それを痛感してなお、リヴァイさんにいつまでも私だけの唯一無二のヒーローでいてほしい。
こんな大きな我儘を、もちろんあの時リヴァイさんに言えるはずもなかった。