第39章 認容
「――――――今後、お前が言いたくないことは聞かない。約束する。」
「…………。」
ナナは小さくすすり泣いて、時折ひくっと身体を震わせる。
「………虫のいい話だが、昨日の“言う事を1つ聞く”を訂正させて欲しい。」
情けなく小さな声で頼むと、ナナは少し考えてから腕の中で小さく頷いた。
「―――――お前の我儘と嘘を聞きたい。」
「――――――。」
しばらくして、すすり泣いて鼻を鳴らす音が止んだと思うと、ナナはゆっくりと身体をこちらに向けた。
その目は赤く充血していて、どれほど泣かせたのかとまたいたたまれなくなる。
気まずそうに目線をゆっくり上げて、俺の目を見た。
銀色の長い睫毛に縁取られた、深い深い濃紺の、吸い込まれるような瞳だ。
ナナと出会った当時、この目に自分が映るだけで良かった。
なのにどんどん欲望は増殖して―――――――――ここまでナナを追いつめた。
くだらない支配欲は今ここで断ち切らなくてはならない。
「…………頭を撫でて、偉かったな、頑張ったなって、言って……欲しい……。」
俺はその小さすぎる我儘にほだされながら、ナナの頭を優しく撫でて、望む通りの言葉を紡いだ。
「―――――お前はいつも頑張ってる。偉かったな、ナナ。」
ナナはその褒美を享受するように軽く目を閉じた。そして目を開くと、俺の言葉の意味を考える。
「…………嘘………?」
「なんでもいい。お前の下手くそな嘘を聞きたい。」
ナナは困ったように少し考えて、小さく口を開いた。