第39章 認容
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ナナが “失望される”ことを過剰に嫌がるのは、知っていた。
ビクターの一件の時も、暴行により受けたその身体と心の傷よりも、俺に知られること、迷惑をかけること、優秀な部下でいられなくなることへの恐怖が一番の叫びとして出てきていた。
立体機動を一から習得するときのあの事前準備や手を擦切るまでやり続ける執念も、根本は“失望される”ことを回避するためなんじゃねぇかと推測する。
いつかナナが寝物語に話した幼少期の話―――――――母親が家を出て父親はナナに辛く当たり、それが医学を学ぶことに火をつけたのだと笑っていたが――――――失望されないように―――――常に優秀でいることが、あいつが医師である父親の愛情を得られるたった一つの手段だったのかもしれない。
いつしかそれはあいつの人格になり、誰に対しても………俺に対しても、“失望される”ことを怖がっているように思う。
そこまで分かっていて、俺は昨日何をした?
自分のエゴによって、ナナが拙いながらも懸命に隠そうとしたものを引きずり出し、「もういい」と言って背を向けた。
背中越しに聞こえたナナの嗚咽交じりに繰り返される『ごめんなさい』はひどく弱弱しくて、全てを自分のせいにして殻に閉じこもる少女のようだった。
ナナが俺を愛していることは、十分分かっていたのに。
愛する人間に、失望ともとれる言葉を投げられ背を向けられることが、ナナにとってはどれほど心を抉るものだったか、冷静になればわかることだった。
挙句の果てに自分の不甲斐なさに我慢できず、その苛立ちを強姦じみた行為でナナに向けた。
――――自分を守れたら良かった、という言葉から、誰かに行為を強要された―――――もしくは強姦されたのだろうと察する。
―――――――つくづく、昨日の自分を殺してやりたくなる。