第37章 哀悼
しばらくして、またナナは飽きもせずに、今度はキッチンをまじまじと見まわった。
「―――――これ………。」
ナナが手に取ったのは、割れたのであろうティーカップの持ち手の部分のみ。
「―――――なんで、これだけ捨てなかったんだろう……。」
「―――――それは………確か………。」
蘇ってきたいくつもの俺の記憶に、それはあった。
母さんが大事にしていたティーカップだった。おそらく、愛していた男にでももらったものなんだろう。
ある日、ガキだった俺はなんとなく母さんが大事にしているティーカップを触りたかったんだ。
繊細なその持ち手に指を入れ、カップの中に集めてきた小石を入れて遊んでいた。
すると、その重みでか、もともとヒビでも入っていたのか、カップの持ち手と本体は離れ、母さんの大事にしていたカップは、俺の目の前でゆっくり落下し、床に打ち付けられて粉々になった。
「――――――あれはガキながらに、やべぇと思ったな。」
「それは確かに、叱られるかもって怖くなりますね……。」
ナナはふふっと笑った。
「母さんは叱らなかった。ただ、俺に怪我がなくて良かったと頭を撫でたが―――――少し寂し気な顔をしていた気がする。今ここにそれが残っているってことは―――――捨てられなかったんだろうな。」
ナナの持っていたその思い出の欠片を手に取って、指を通してくるくると回す。
それを見たナナが、俺の顔を見上げた。
「――――――もしかして、リヴァイさんのカップの持ち方って………。」
「………あ?」