第37章 哀悼
『―――――リヴァイ、お誕生日おめでとう。あなたが生まれて来てくれて、良かった―――――。』
ズキン、と頭の片隅が軋んだ。
自分の中の最古の記憶を越えて、それは蘇った。
俺が呼ぶと、長い黒髪を耳にかけて笑顔で振り返る。
そして―――――母の胸に抱かれ、その言葉を俺は聞いたことがある。
靄がかかったような記憶が少しずつ鮮明になり、俺はようやくその笑顔をはっきりと思い出した。
「母さん――――――。」
「………リヴァイさん……?」
母さんの笑顔につられるようにして、いくつものシーンが思い出される。
母に手を引かれ、歩幅を合わせて歩いてくれた日のこと。
俺の頭を撫で、眠るまで子守歌を歌ってくれたこと。
美しかった母が、やがて病に伏せるようになったこと――――――
俺にとって母さんの死はあまりに衝撃的で、その事実はそれまでの記憶を全て封じ込めて蓋をしたようだ。
それを、ナナが開いてくれた。
ナナは状況をよく掴めないといった表情のまま、胸にすり寄る俺の頭を優しく撫でた。
「―――――なにか、良い思い出が見つかりましたか?」
「―――――あぁ。母さんは――――俺を愛していた………。美しい、人だった………。」
「――――その話は、たくさんたくさん聞きたいです。リヴァイさんは、愛されて育った人なんだと思っていたので。」