第37章 哀悼
「どうした。」
「――――記憶は無くても、わかります。お母様はリヴァイさんを、愛していたんですね。」
「……何がわかる。客に孕まされて、商売上がったりで……疎ましい存在だったに決まってる。」
目線を落とす俺の手をとって、ナナは笑った。
「わかりますよ。……見てください。」
ナナが指さしたキッチンには、木で作られた、小さな踏み台が置かれていた。
「あ?あれがなんなんだよ。」
「―――――小さなリヴァイさんがテーブルや引き出しに届くように、お母様が作ったんでしょうね。少し歪な形をしてます。一緒に……お料理をしたりしたんでしょうか。」
「……………。」
ナナはふふっと笑う。
「それにほら、柱の傷。」
再びナナが指さした先には、柱の下のほうに何本も横に傷が入れられていた。
「日付が掘ってある。全て12月25日………リヴァイさんのお誕生日の度に、その成長を感じるために刻んでいたんじゃないですか。―――――愛していなければしませんよ、そんなこと。」
「――――――っ………。」
ナナの言葉に、頭の奥が痛む。何か、封印していた何かが呼び起こされそうな――――――そんな感覚だ。
「リヴァイさん?どうしました?」
頭を押さえて一点を見つめる俺を、ナナが心配そうにのぞき込んだ。
俺はナナの腰を引き寄せて抱きしめ、胸に顔を埋めた。
「……リヴァイ、さん?」
「ナナ――――――以前言った、『誕生日おめでとう』を………もう一度、言ってみてくれないか。」
「………はい、何度でも。」