第37章 哀悼
品のねぇ赤やピンクの看板が所狭しと立ち並ぶ娼館街に足を踏み入れた。
ナナは物珍しそうに、あたりをきょろきょろと見回す。
「………おい、落ち着け。」
「あ、ごめんなさい、こういうところ……初めてで……緊張しちゃって……。」
「………いちいちだな、お前は………。俺の我慢の限界でも試してんのか。」
「え??」
まるで意味を理解してねぇナナにため息をつきつつ、意地の悪い質問をしてみる。
「―――――まさか、ここが何するところか分かってねぇわけじゃねぇよな?」
「それは……っ……、あの、はい……一応は……分かっている、つもりです。……でも、なんでここに………。」
「――――――俺の母親は、娼婦だった。」
「…………そう、だったんですか……知らなかった……。」
「父親は誰かわからねぇ。客に孕まされて生まれたのが俺だからな。」
昼間の静かな娼館街を抜け、平屋のボロい建物の前に辿り着いた。
「―――――久しぶりだな……。」
「ここが………リヴァイさんの、生まれた家………。」
今にも外れそうな立て付けのドアを開けると、何もかもあの頃のまま――――――朧げな記憶の中、唯一はっきり覚えているのは、母親の死体が横たわっていたベッドだ。
ナナは吸い込まれるように家に入り、まじまじと色んな所に目をやった。
「―――――お母様は、どんな方だったんですか?」
「―――――覚えてねぇ。俺が覚えている唯一の母親は、そのベッドに横たわっていた死に顔だけだ。」
「…………そう、ですか………。」
ナナは再び部屋の中に目をやった。そして、柔らかな笑みを零した。