第36章 抱擁
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相変わらず純真無垢な顔で煽ってきやがる―――――――今夜抱きつぶしてやるからな、と物騒な事を思いつつも、なによりナナの笑顔が見られたことに心の底から安堵した。
2人して身体を起こすと、なにやらナナがハッとした顔をする。
「あ。」
「今度はなんだ。」
「荷物、部屋に………。」
そりゃそうだろうよ。
てめぇだけが手ぶらで飛び降りて来やがって。
俺は冷えた目線を向けると、ナナは焦った様子で立ち上がった。
「ご、ごめんなさい……すぐ取ってきます……!」
ナナが駆け出そうとすると、その先にはナナの荷物を部屋から降ろしてきたのか、いつか見た世話係の女が立っている。
「お持ちしましたよ。」
「ハル!!ありがとう!」
「お嬢様、まだロイ様がいらっしゃいます。迎えが来たことは、お伝えになったほうがよろしいのでは?」
「そう……だね。」
ナナが屋敷のほうへ走り去って、俺は世話係の女、ハルと取り残される。
気まずいじゃねぇか。
俺は確かこいつにとんでもねぇ悪人だと思われているんじゃなかったか。
「………あなた、地下街にいた―――――――。」
「あぁ。リヴァイだ。今は調査兵団で兵士長をやってる。―――――病に伏したと聞いたが、もういいのか。」
ハルは驚いた顔をした。
「は、はい……お心遣いありがとうございます……。―――――まさかあなたがリヴァイ、兵士長……?人類最強という噂の、あの――――――?」
「………うぜぇ噂だな。」
言うやいなや、ハルは俺に向かって深く礼をした。