第36章 抱擁
「………ねぇ、ロイ――――――規制解除されたら、私は―――――――。」
私が言いかけた言葉にロイは私を見つめて、少し寂しそうに目を細めてふっと笑った。
「――――――分かってるよ。戻るんでしょ?」
「………うん。」
「――――――嫌だって、言ったら?」
「ロイが嫌だって言っても、私は戻る。」
「うん。それでこそ姉さんだよ。―――――僕は大丈夫。」
ロイの言葉に、私は安堵した。
「もう一つ、聞きたいの。前に私に飲ませた薬――――――あれは、何だったの?」
「………僕の事を二度と忘れなくなる薬。」
「…………。」
「離れても、僕の事を信じていて欲しい。――――――頑張るから。」
「――――――うん。私も――――――ロイのことを事を想って、頑張るから。」
少し背の高いロイを、背伸びして抱きしめた。ロイもまた、私の背中に手を回してふわりと抱きしめ返してくれる。
「ねぇロイ。この先疫病が落ち着いたら――――――一緒に、お母様に会いに行こう?」
「―――――……なんで?」
ロイの表情が少し曇り、私を冷ややかに見下ろした。
負けじとその瞳を逸らさないようにロイの両頬をしっかり手で包む。ロイは、目を伏せた。
「ロイはお母様を誤解してる。本当に、お母様は男の人と逃げたんじゃない。自分が救える命を諦められなかっただけなの………!」
「…………気が、向いたらね。」
「うん。それでもいい。私はお母様に見せたい……立派に人を救う医師になろうとしているロイの姿を……。」
「…………考えとくよ。」
「―――――ありがとう。」
今すぐじゃなくていい。
ロイは自分の居場所と、生きる意味を見つけ始めた。それが確かなものになったら――――――お母様に会いに行く。
十年来の蟠りを解いて、今度こそ、離れていても繋がっている家族になるために。