第36章 抱擁
―――――――――――――――――――
しばらく増加の一途を辿っていた感染者数は、王政の対策により横ばいに推移し、やがて冷たい木枯らしが吹く頃には、減少傾向にあった。
ダミアンさんとの話し合いでも、各区の往来の規制解除も視野に入れて進めている。
「ロイ、様子はどう?」
私はロイが発案し、薬の開発の為に王政が設立した研究所を訪れた。
ロイはすぐに出迎えてくれ、庭のベンチに二人並んで腰かける。最近は私はお父様の秘書、ロイは研究と別々に過ごす事が多かった。お互いの近況を色々と話していると、ロイが研究の進捗について目を輝かせて話し出した。
「さすが精鋭の研究者の皆さんだよ。今、病原体の増殖を抑えることができる成分のヒントが見つかったところ。」
「病原体の増殖を抑える……?!すごい、そんなことが可能なの……?」
「うん、まだまだ、実用化までの道のりは遠いけどね。」
「―――――この研究に熱を入れるのはいいけど、大学は大丈夫なの?あまり無理をし過ぎないで………。」
「大丈夫。今のところ両立できているし……それに、この薬をいち早く作りあげたら、薬学のほうは飛び級で修了とかできちゃうんじゃないかなって思って。」
ロイはニヤリと笑う。
「……抜け目ないわね……。」
ロイが、生き生きしていることが嬉しくて私も笑顔になる。
「じゃ、このあと実験予定があるから、僕はこれで。適当に館内見ててもいいよ。……あ、今日は各区の規制解除について最終結論の会議なんだっけ。」
ロイがベンチから立ち上がって、白衣を翻した。
「うん、このあと王宮に行って、ダミアンさんやお父様と話し合ってくる。」
「僕は行けなくて悪いけど、姉さんがいてくれるから安心だよ。宜しく頼むね。」