第36章 抱擁
団長室を出たところで、ハンジが神妙な顔をする。
「どうした。」
「―――――エルヴィンが、変だ。」
「―――――今更だろ。あいつは、もともとイカれてる。」
「あんなに怖いと思ったのは、初めてだよ………。底が、見えない。彼が疑っているのは――――――。」
「………まぁ、あいつの思惑は俺にはわからねぇからな。もしあいつの腹の内を引きずり出すことができる奴がいるとすればそれは―――――――。」
「………ナナだね。」
「おそらくな。」
「リヴァイ、私からも頼むよ。早くナナを連れ戻してくれ。」
「…………ああ。」
ナナがいなくなってから、エルヴィンは傍から見れば何も変わっていないように見えるだろうが―――――わずかに、不安定だ。
それはハンジも感じ取っていた。
あいつの為にナナを連れ帰るのは癪だが、仕方ねぇ。あんなイカれた奴でも一応兵団のトップだ。
ナナが発ってからもう数か月。調査兵団に入ってから、こんなにも長く会わなかったことはなかった。
俺は柄にもなくナナからの手紙を読み返す。
文末の“愛しています”の文字を、お前はどんな顔で、どんな想いで書いたのか。
早く会いたい。
この腕に抱きしめて、お前を感じたい。