第36章 抱擁
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「――――――ナナが早くに情報を寄こしてくれていなかったと思うと、恐ろしいな。」
「――――――ああ。」
「―――――ニナのことは、残念だった……。死に至る場合があると分かった以上、これ以上感染者を出さないつもりで対策をすべきだな。」
エルヴィンは隔離した兵舎内だけでなく、食事の時間を細分化したり、訓練の時間を班ごとにずらして大勢が集う事を避ける対策を即決した。
「―――――それで、奇行種の話だが。」
「そうなんだよ!!いやもう、本当に気味が悪くてさ……。」
ハンジがあの時のことを神妙な面持ちで語る。
こいつが巨人の話を喜々としてしないだけで、そのことの重大さがわかる。あの行動は、異常だった。
「途中まで通常種のような行動をしていたのに、急に知性を持った、と?」
「―――――いや、急に知性を持ったというより、要所要所で知性を見せた、という方が近いな。最初に項を庇ってからずっと知性があったわけじゃない。磔台から解放された瞬間は、間違いなく通常種の行動と同じ――――――目の前の俺達を食うことしか頭になかった。それがまた、俺の殺気を感じ取った瞬間――――――逃げる、という行動を起こした。」
「リヴァイの言う通りだ。まるで―――――――そこだけ違う―――――動物の生存本能を持った、別の生き物になったみたいに………。」
「……今までそんな行動を見たことは?」
「私は、一度もないよ………!」
「あぁ、俺もだ。」
エルヴィンはふむ、と顎に手をあてて思考を巡らせた。
「まるで禁忌に足を踏み入れたかのような、奇妙さだな。」
奴の顔は、真剣だがどこか面白がっているような―――――――内に秘める好奇心を隠せていないような、そんな様子だった。
俺は奴のその表情に少しの嫌悪感を抱いた。