第35章 疫病
「―――――僕への、見返りは?以前のように、私が動くに値するものを君がくれるのかな?」
ダミアンさんが、チラリと私を見た。
「いいえ。なにも。」
「―――――――………。」
「姉さんは渡さない。だけど協力はしてほしい。」
「………随分強欲だね。」
「―――――人を操るより、自分の本心でぶつかっていいって、学んだんで。」
全然うまくやれてないし、直球すぎるし、国の中央で権力を握る人物への応対とは思えないロイの態度は、歳相応に無遠慮で、強欲で、我儘で。
めちゃくちゃなロイが、本当のロイが顔を出したような気がして、私の目から涙が一筋零れ落ちた。
「―――――ダミアンさん、お願いします……っ……!」
私は大きく頭を下げた。
「この国を守るために、一緒に闘ってください………!」
「―――――ナナさん次第だと、言ったら?」
「――――――………。」
「僕はあなたを諦めていない。」
ダミアンさんが真っすぐに私を見つめる。
何と答えていいのか―――――唇をかみしめると、ロイが口を開いた。
「姉さんは渡しませんよ。ただ、ライオネル家にとってメリットはある。あなたが僕たちに協力してくれたら、今ならまだ酷いことにならずに食い止められる。それを全て―――――――ライオネル公爵家の功績としてお渡しします。僕たちは、あなたに言われるがまま動いただけ。全てはこの国の中央を統べるライオネル家の賢明な判断と行動力によるもの。“国民の信頼“を得られるチャンスじゃないですか。」
「…………ほう………。」
「なんなら、新聞社に記事も書かせますよ。嘘の証言は得意なので。」
ロイがくすりと笑って続ける。