第35章 疫病
少し前に訪れたライオネル邸に再び足を運んだ。
今度は、ロイと二人で。
「――――やあ、お待ちしていましたよ、オーウェンズご姉弟。」
豪勢な屋敷に迎い入れられ、客間に通されてすぐにロイは話を切り込んだ。
「今日は、お願いがあってきました。」
「……なんでしょう?」
「この国を疫病から守るために、ライオネル公爵の力を貸して頂きたい。」
「―――――疫病?」
ダミアンさんの眉がピクリと動いた。
この王都に、壁外の異臭も、疫病もまだ届いていない。のどかなものだ。
ロイは近日中の医療機関受診者の推移と症状記録などの資料を提示した。
「断言してもいい。これからこの疫病は蔓延する。何もしなければ――――――一瞬でこの国を、内側から滅ぼしていく。だから力を貸してください。あなたの権力を以って王に進言し、全ての地区の往来を絶ち、人の流れを止めて欲しい。また、検疫所と隔離病棟の確保、感染予防のための物資の配給もです。」
「―――――なんだって?それはまた……急に無茶な話だ……。」
ダミアンさんははは、と薄く笑って続ける。
「―――――それに納得いかないな、ロイ君、君がこの国を救おうとしているなんて――――――むしろ君はこの国を、世界を滅ぼしたがっている子供のように見えたんだが?」
「―――――そうですね。今もそれは変わってません。」
「??言っていることの辻褄が合わないね。」
「世界はどうだっていいんだ。ただ、僕には守るべきものがあるって気付いたから。守りたいもののためなら、ついでに世界だって救ってやりますよ。」
ロイの意志の強い目に、ダミアンさんが驚いたような表情を見せた。
私は涙が零れそうだった。
ロイの口から、守るという言葉が出てきたことが何より嬉しかった。