第35章 疫病
そして思った通り――――――一人、また一人と高熱にうなされて倒れていく。恐れていたことが起こった。
「――――――まだこの体調不良者が全て同じ疫病によるものとは断定しがたいが、兵舎内での蔓延は必ず阻止する。現段階で症状が出ている者たちは、隔離しよう。ただちに一般兵たちが使っていた宿舎を隔離療養場所として整えてくれ。それと―――――――君たちは――――――。」
エルヴィンが兵士に指示を出したあと目をやった先は、ナナが育てていた医療班の9人だ。
エミリーが、口を開いた。
「私たちが医師の指示を受けて看病します……!ナナさんが、教えてくれた心得があるので……ナナさんが戻られるまでは私たちが!」
「奪還作戦にも出なかった私たちにやれることを、やらせてください!」
「ナナさんから手紙も受け取りました。私たちを頼ってくれているんです……!」
「――――――本当に、頼もしいな。ありがとう。」
エルヴィンは嬉しそうに微笑むと、医療班の奴らの顔が少し誇らしげになる。
「君たち自身の身の安全も必ず守るように。感染対策を徹底してくれ。」
『はいっ!』
高熱や体調不良を訴える兵士は8名。
その中には、エルドやニナの名前もあった。
まさか生きて壁外から帰ったのにも関わらず、壁内で命の危険に晒されることになるとは思ってもみなかっただろう。
調査兵団の中だけで、且つナナのいち早い情報とエルヴィンの迅速な対処があってこれだ。
この症状を持って帰還した一般兵や一般市民が町に帰るとどうなる――――――?
俺はむしろ目に見える巨人よりも、目に見えない疫病のほうが恐ろしいとさえ思った。