第35章 疫病
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―――――あの気味の悪ぃ巨人と出会った奪還作戦から帰還して数日後。俺はエルヴィンに団長室に呼び出された。
「ナナから手紙が来た。奪還作戦の弊害で、おそらく疫病が出始める。兵士たちの体調に十分留意し、予防に努めると共に、症状が出ている兵士は隔離するように、とのことだ。」
「疫病―――――?」
「私もよく知りはしないが、確かに言われてみれば壁外には大量の死体と……この匂いだ。良くないものが出て来るのも理解できる。………虫を媒介にして感染が広がる可能性も……とある。それは厄介だな。」
「なるほどな。ナナは疫病の蔓延を防ぐために駆けまわってるってところか。」
「―――――そうだ、弟が最初に警鐘を鳴らしたらしいぞ。………うまく、やっているみたいで何よりだな。」
ナナの事に関してはなにか嫌な予感ばかりしていたが―――――、エルヴィンからの情報を聞いて少し安心した。
あいつの身になにかが起こっているわけでないなら、それでいい。
「この局面を終えるまで、ナナは戻らないだろうな。」
「――――――そうだな………。」
「おや、もっと駄々をこねるかと思った。」
エルヴィンはふふっと笑う。
「うるせぇよ、ガキじゃねぇんだ。――――あいつが自分の武器で戦おうとしているならそれは―――――俺の私欲で止めるべきじゃねぇだろ。」
「―――――少しは大人になったようで良かったよ。それはそうと、この対策に動くのは早い方がいいな。早急に準備しよう。報告で上げてくれていた奇行を見せた巨人たちの話は、この局面が落ち着いてからだ。」
「――――――了解だ。」
いかにナナを信用しているのかがわかるエルヴィンの決断の早さ。
奪還作戦から戻った兵士達は全員検疫をし、兵舎の中には大量の消毒薬と石鹸が設置され、基本的な感染予防対策が取られた。