第35章 疫病
「――――――なに……?」
「お願い、お父様。ロイが警鐘を鳴らしてくれたことを無駄にしたくない。私もロイと同じ考えなの。おそらく―――――近いうちに疫病は発生する。」
「――――――………膨大な支出だ。なぜ言い切れる?」
「疫病はいつも決まって地下街や貧しい農村から広まっていく。衛生的要素が大きいことは確か。今、ウォール・シーナの外はどうなっているか知ってる………?調査兵団からの手紙では、壁外からの異臭が酷く、害虫の大量発生の兆しが見られている。――――――条件が、整い過ぎているのよ。」
父さんは眉を顰め、難しい顔をして考え込んだのち、やわらかく微笑んで言った。
「―――――――わかった。お前たちの思う通りにやってみなさい。」
それからの日々は多忙を極めた。
姉さんと一緒に、疫病を最小限に抑えるための対策を考えていく。
姉さんはいつだって僕を正面から見つめて、まだ医師資格もない僕のことを、同等の医師と認めているかのように頼ってくれる。
新しい僕が、形作られていくみたいだ。
別にこの国を救うヒーローになんてなりたくもないし、疫病でこの国が壊れようと知ったこっちゃないのは相変わらずだけれど、姉さんを、父さんを、ハルを――――――守ることに繋がるのなら、この局面を乗り越えてみるゲームも悪くない。