第35章 疫病
「――――――疫病を生み出すのは僕じゃない。あいつら自身だ。」
「――――――え………?」
「多分、もうそろそろ出始める。疫病は、あいつらが企てたこの奪還作戦で高確率で発生する。」
「―――――――………。」
「壁外には大量の死体と―――――――巨人が人間を食った後に吐き出した汚物。合わせて25万人分――――――。死骸にはやがて蛆がたかり、害虫が大発生する。」
「――――――……っ…!」
「――――25万人もいれば、病原を持っている人間がいるに決まってる。その死体から沸いた虫によって、感染は広がる。おそらく―――――爆発的に増えるのは、2~3週間後。」
姉さんの顔が青ざめる。
「――――――何もしなけば、このままさらに疫病で壁内の人間が何万人も死ぬかもしれない。今ある薬が奇跡的に効くなんて可能性は低い。感染しないようにするのが得策だと、そう思う。更に言うなら、隔離病棟として使える場所の目星もつけておくべきだ。」
「……………。」
絶句したまま、姉さんは動かない。
少しの不安がよぎる。
「………信じて、もらえないかもしれないけど、僕なりに―――――――。」
「やろう、今すぐ。」
姉さんの目に力が宿ったように見えた。
僕の両手をしっかりと握って、まっすぐにその目を見つめて言った。
「―――――信じるの………?…………僕のこと。」
「―――――当たり前でしょ。こんな頼りになる弟を信じないわけないじゃない。」
僕はとても情けない顔をしていたと思う。
ただただ、嬉しかったんだ。
「お父様に話そう。絶対、今のお父様なら理解してくれる。」
姉さんは僕の手をとり、食卓に向かった。