第35章 疫病
病院に着くと、昨日と同じシャツに皺が寄ってくたくたになった状態で、父がすでに忙しなく書類に目を通している姿があった。
「―――――おはようございます。」
「―――――ああおはようナナ。……なるべく家に帰ると言ったのに、昨日も帰れなくて悪かったな。」
「いえ……ただお父様は働き過ぎです。少し、休まないと。奪還計画に派遣した医師の生存確認と負傷状況の確認、遺族への連絡と給金の手配も私がやります。少し……休んでください。」
「…………悪いな。」
父はふっと息を抜いて、椅子に大きくもたれかかった。
「――――――こんなに頼もしい娘を、もっと早くから頼らなかった自分に腹が立つよ。」
父はふっと自嘲したように笑った。
「お褒めに預かり光栄ですが……私はやっぱりこの病院の中でじっとはしていなかったと思いますよ。」
私も笑う。父と笑い合うのは、何年ぶりだろうか。
「確かにな………お前はやはり、クロエに瓜二つだ――――――美しく、強く、賢い………。私には、過ぎた娘だ………。」
「―――――紅茶を淹れますね。」
私は父に紅茶を差し出した。カップを持ち、その香りを楽しんで口をつける。
「そういえば―――――クロエは結局、紅茶を好きになってはくれなかったな………。」
「………え………?」