第35章 疫病
「えっ、ヤだよ僕料理とかしたことないし……。」
「―――――ごめんなさいは、行動で示しましょうね?」
「―――――ハイ………。」
ハルは怖い。
もともと芯の通った、根っからの教育係に適任の性格だ。
ハルの体調が万全に戻りつつあると同時に、ロイへの接し方も変わって……いや、元に戻ったんだ。
私たちが小さかった、あの頃に。母のようなハルに。
「ではローリエを摘みに、あとついでに庭の手入れもしましょう。」
「……うん!」
ロイの少年のような笑顔がほんの少しずつ、蘇る。
仮面のような魅力的で凍てついた笑みよりも、何倍も美しくて愛おしいと私は思う。
ハルもまた、そんなロイを柔らかい眼差しで見つめている。
「では、行ってらっしゃいませ、お嬢様。」
「行ってらっしゃい、姉さん。」
―――――色々あったけれど………ほんの少しずつ、この家は温かみを取り返しつつある。あとは、母が返って来てくれたら―――――ロイと話す機会が作れたら……母は無事だろうか。覚えている。母のついた班の班長は、ミケさんだった。ミケさんならきっと大丈夫。何事も無かったかのように、帰って来てくれる――――――母と一緒に。
扉を開けると、今までと同じように庭師が木を整える姿がある。みんな、戻って来てくれた。
私は笑顔で挨拶をして、馬車に乗り込んだ。