第35章 疫病
ウォール・マリア奪還計画を終えて―――――――
その死亡者は25万人に上っていた。
王都にはまだそうでもないものの、ウォール・ローゼ内には奥地まで壁外からの異臭が届いていると噂が立っている。
これを、政の中心の人物たちはどんな想いで聞いているのだろうか―――――――
ロイはしばらく病院経営から離れることになった。父の判断だった。
ロイは嫌がることもなく、どこか安堵したような、解放されたとでも言うような、そんな表情だった。
父の体調のこともあり、今は私が病院経営を少し手伝っている。
父の秘書のような役割だ。
「姉さん、今日は遅いの?」
私が病院に赴こうとした朝、ロイが私の服の裾を少し引っ張って甘えるように呟いた。
「そうね、少し遅くなるかもしれない。奪還計画の医師派遣の事後処理も進めないといけないし………。」
「そう………。」
「―――――お嬢様、遅くなっても夕食はこちらで召し上がりますか?」
「うん、そうする。」
「では、お嬢様のお好きなシチューを作っておきましょう。ロイ様も手伝ってくださいね。」
ハルがにっこりとロイに微笑む。