第1章 出会
「なぁ……さっきのガキだが……関わらねぇほうがいいんじゃねぇのか?」
「……なぜ、そう思う?」
白髪でボサボサのまとめ髪、白髪交じりの眉。老いぼれにしては整った顔をあげ、ワーナーの眼が俺を見据えた。俺は自分自身の中の仮説を説いた。
「さっきガキが出て行ったとき…石鹸の匂いに混じって、この紅茶と同じ香りがした。だがこの部屋に入った時には、紅茶は出されていなかった。だとすれば、あの香りはあのガキの服に染み込んだ香りだ。」
「………。」
ワーナーは黙ったまま、俺の推論に耳を傾ける。
「ガキの服装は無難で目立たないものだったが、シワも汚れもひとつもなく、綺麗に整えられていた。朝に紅茶を嗜み、汚れひとつない服を着ているようなガキは、この地下街には存在しない。地上…王都の人間だ。そしてじじぃ。お前はこの紅茶を『かなり良いものだな』と言った。自分で手に入れたものだったなら、『良いものだ』と言えばいい。これは、あのガキから贈られた…そうだろ?高価な紅茶を持ち出せる…おそらくはそこそこ立場のある家のガキだ。」
王都の富裕層のガキが、何を目当てにここに来るのか。恐らくは、さっきワーナーが隠すようにしまい込んだあの書物か。
何かを企てるような歳には見えなかったが、企てることだけが脅威ではない。
純粋で無垢であっても、それが周りを巻き込み、傷付けることだってある。それに、もしガキがここらの荒くれどもにカモにされたら……ワーナーも巻き添えだ。
あのガキは俺たちとは違う。関わるべきじゃない。