第1章 出会
しばらく腕を組んだままイスをキィ、と傾けていると、何やら嗅ぎ覚えのある香りが漂ってきた。
すると俺の目の前に薄汚れたカップに入った、紅色の液体が差し出された。そうだ、この香りは…さっきのガキと同じ香りだ。
「紅茶、だ。飲んだことあるか?」
俺は初めて見るそのかぐわしい液体をまじまじと見つめ、香りを嗅いだ。
「いや……ない。なんだこれは。酒か?」
こんな地下街で飲めるものといったら、ドブ臭ぇ水か、薄いコーヒー、酒かしかない。
「いや、酒じゃない。茶の一種だ。茶の葉を発酵させ、乾燥させた物を湯で戻して抽出する。香りが良いだろう。茶葉の種類や発酵方法の違いで香りや味が異なる。これは…かなり良いものだな。」
「紅茶………。」
俺は初めて目にする飲み物に口を近づけた。立ち上る湯気が、香ばしくなんとも言えない香りがする。口に含むと、更にその香味をはっきり感じられる。ほんの少しのしぶさと、ほんの少しの甘味がなんとも心地よい。
「……気に入ったようだな。」
じじぃは俺の顔をみて、ニッと笑って言った。
「ああ……悪くない。」
それから俺とじじぃはゆっくりとその紅茶を飲みながら、いつも通りの他愛もない会話をした。
だが、さっきのガキに対して言い知れぬ違和感がぬぐい切れなかった俺は、じじぃ…もといワーナーに核心をつく質問をした。