第33章 宥和
「――――――ロイ。」
「………身体の調子はどう?姉さん。」
口元に微かに笑みを乗せて姉さんを見つめる。姉さんはこちらに歩いて来て、僕の手をとりソファに座らせた。父さんは、呆然とただそれを見ていた。
ソファに座った僕の目の前に立つと、姉さんが僕に問う。
「――――――殺してほしい、それがロイの本当の望みなの?」
「―――――そう。もう疲れた、こんな僕のまま生きることに。殺して。そして―――――一生僕の事を忘れないで。」
いつものように腹の底を見せずに言うことができない。掠れた声と、頬を伝う生ぬるい液体。
「――――――分かった。私が、殺してあげる。」
姉さんは片膝をソファについて正面から僕の首に両手をかけた。
「ロイの我儘が、好きだった。」
「―――――………。」
姉さんの手に僅かに力が籠められる。
「ロイの、時折見せる無邪気な笑顔と、悪戯な眼差しが好きだった。」
「―――――………。」
「平気で人を騙すくせに、困っている少女を放っておけないロイが、誇らしかった。」
「………っ………。」
ギリ、と姉さんの細い指が僕の首に埋まる。
頭の血液が沸く、そんな感覚だ。
「私をいたぶっているはずなのに、―――――私よりも泣きそうな顔をしているロイが、可哀想で―――――愛おしかった……っ……!」
「………っ……ぁ…………っ……」
脳への酸素が絶たれ、頭や視界がぼんやりし始める。
揺らぐ視界には、ぼろぼろと涙を零してぐしゃぐしゃの顔で泣く、もう一人の僕がいる。
「―――――ねぇ……っ……本当に、過去にしてしまっていいの……?やり直せる、何度だって………!」
「……………っ………。」
「――――――自分の弱さを全部他人のせいにして、死に逃げるな、この………腰抜け野郎!!!」
僕は、笑った。
姉さんがあまりにらしくない口調で僕を叱るから。
叱ってるくせに、ぐしゃぐしゃに泣いていて、全然言ってることと顔が一致してなくて。