第33章 宥和
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閉ざされた病院の一室で、私は弟に身体を揺さぶられる。
私の上で快楽を貪るこれは、誰?
楽し気に私を弄ぶのに、その反面どこか泣き出しそうな顔をしているのはなぜ?
ロイは欲望を吐き出すと、弾む息を整えてその白い身体にシャツを羽織る。そして、机の上に山積みになっている届いたばかりの書類に目を通す。
「1日目、6万人の出陣に対して―――――――ははっ、帰還したのは―――――1200人弱か。上々じゃないか。予定通り死んでくれていい傾向だ。」
上機嫌に書類を見て笑いながら、私の方へ近づいてくる。
「ねぇ、今日出陣する班に派遣する医師のリスト――――――見たい?」
何を言っているのだろう。
これ以上、私をどうしたいのだろう。
ロイに提示された書類には医師の名前がズラリと書かれていて、ロイの指が上から滑ってゆき、ぴた、と止まったその指の先には、
“クロエ・リグレット”
母の名前があった。
「驚いた?」
ロイの満面の笑みが私に至近距離で向けられる。
「――――――僕たちを置いて他の男のところへ逃げたあの女、生きて帰れるかな?」
私を泣かせたいのか。
怒らせたいのか。
蔑ませたいのか。
絶望させたいのか。
ロイはお母様を憎んでいる。
お母様が家を出た真実を私は知っているが、ロイは知らないまま、むしろお父様や周りの使用人たちの噂から真実とは異なる理解をしたまま、ここまで来てしまった。
―――――ハルが言っていた。どうやってでも、五年前のあの日、お母様に会いに行く時にロイを連れて行くべきだったのかもしれない。