第32章 佞悪 ※
「……ひぃ………っ…………。」
聞こえてくる断末魔に、オルオが青ざめる。
リンファもサッシュも、それなりに出陣歴がある奴らでさえ目を覆いたくなるような光景だ。馬を駆るその平野にも、バラバラになった元人間、巨人の食い残しがそこらに転がっている。
――――――嫌な光景だ。
「………想像していたけど、ひっどいねぇ………。」
さすがのハンジでさえ、言葉を詰まらせる。
馬を一時間程走らせると、遠目に巨人がバタバタと倒れていくのが見える。相当な手練れがいる――――――あれは、ミケの班だ。どの班にも中央には荷台を付けた馬車を配置しており、そこに負傷者や非戦闘員である医療従事者を乗せている。
何気なくふと目をやると、一人のフードのついたローブを纏った女が荷台から降り、半身を食いちぎられた兵士の元へ駆けていくのが見えた。
ミケ達戦闘員はまだ3体の巨人とやりあっている。まだ他の巨人にその女は気付かれていないが、気付かれたら食われてお終いじゃねぇか。
――――――そう冷めた目で遠巻きに様子を伺っていたその時、風に煽られ、ローブが飛んだ―――――――
その瞬間、俺は目を疑った。
心臓が、大きな音を立てて硬直したような感覚。
なんで今、お前がここにいる――――――――
「―――――おいハンジ、あとで合流する。何も聞かずに、先に行け……っ……!」
「えっ?!?!ちょ、リヴァイ?!?!」
混乱と焦燥でぐちゃぐちゃな頭でなんとかハンジに指示を出し、方向転換をした。
こんなところに、いるはずがない。
――――――だが、そうそういるもんじゃねぇ、あの白銀の髪は―――――――。