第32章 佞悪 ※
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ナナから手紙が来てからももう何日も経ったが、やはりナナは帰って来なかった。
今すぐ連れ戻しに行きたい衝動を押さえつつ、馬に跨る。
ウォール・マリア奪還作戦が始まって三日目。
ひでぇ死臭が壁内まで漂っている。当然だ。先発した隊の人間が、すでに何万人も死んでいる。
「準備はいいな、ハンジ。」
「はいよぉ!!任せとけって!みんなも大丈夫だね?」
『はい!!!』
「あぁぁあ興奮するねぇえぇ!!さぁ、ちゃちゃっと可愛い奇行種を捕まえに行こうじゃないか!」
お気楽に目を輝かすクソメガネをよそに、不安げな7人に目をやる。どいつもなかなかにビビッてやがる。無理もねぇ、この死臭の先に、絶望的な光景が待ち受けていることが分かりきっている。
「お前らに言っておく。―――――死ぬな。俺が許さない。」
オルオがごくりと喉を鳴らした。初陣でこのバカげた作戦とは同情する。が、やるしかねぇと腹はくくっている様子だ。
「―――――――出るぞ。」
『はいっ!!!』
俺は精鋭の8人を引き連れ、密かに壁外へ駆けだした。
遠目に巨人と戦う――――――いや、食い散らかされている隊を見ながら、馬を駆る。