第32章 佞悪 ※
「近親相姦が禁忌なんて、人間が下らない倫理観で後付けしただけなんだよ。元々自然界ではごく当たり前のことだし、そう――――――噂によれば、近親者同士のセックスって最高にキモチイイらしいよ?そりゃそうだよね、身体を構成する血と遺伝子が共通していて、相性が悪いわけない。――――愛してると言うなら身体も捧げてよ。」
「家族愛と、その愛は違うでしょ……っ……。」
「僕にとっては同じだ。―――――そもそも愛って何?わからない。だから教えて。」
「………っ……冗談にしては、タチが悪いわ………!」
ロイの華奢な手なんて簡単に振りほどけると思ったのに、できない。押さえつけられた両腕に力を込めても、ビクともしない。まるで、知らない男の人みたいだ。
「その唇でキスした?僕の知らない男のモノを咥えた?その行為で愛を伝えたなら、僕にも同じようにしてみてよ。」
「何をバカな――――――――………っ………。」
私と同じ銀髪が、ふわりと額に触れる。
同じ色の瞳が、目の前で私を映す。
深い深い闇の色。
息をすることも許さないような口付けは、まるでロイからの復讐のようだった。