第32章 佞悪 ※
屋敷から病院へ戻る間、今までの事を整理して考えた。
ハルの容体が良くなった理由。
ロイの性格と今までの経緯。
ハルが感じている、ロイに対する罪。
私はふと畳んだクラバットをポケットから取り出した。あの時、ロイの傷口に当てたことでロイの血が染み込んだ、リヴァイさんのクラバット。念入りに洗っても、血の染みはとれなかった。
私の中の絶対的なものに影を落としたようで、ひどく不安な気持ちになる。
「ただいま、ロイ。」
「―――――おかえり。ハルはどうだった?生きてた?」
「………縁起でもないこと言わないで。とても元気そうだったわ。多分、もう大丈夫。」
「―――――ちぇっ………。」
「――――――ねぇロイ。あれは、あなたの実験だったんでしょう?」
私の言葉に、ロイの表情が仮面のように貼りつく。その口元に、わずかな笑みを残して。
「――――――そうだよ。」
全身の鳥肌が立った。
まだロイの中には言い知れぬ闇がある。
「………話してよ。あなたが何を思って、何をしたのか。私は知りたい。」
私はまっすぐにロイを見つめた。ロイの闇を、見ないふりはしない。ちゃんと向き合って、一緒に背負うために。