第32章 佞悪 ※
「もっと早く、こうしていれば良かった。ロイとくだらないことをいっぱい話して、我儘を言い合って―――――……。最近ね、ロイが笑うようになった。あと、怒るし、拗ねるし………今までは………綺麗に取り繕われたロイしか、ほとんど見たことが無かった。―――――家族なのにね。」
「………良かった。」
「まだ、心の氷は完全に溶けてないけどね。時折怖い顔をするし―――――……相変わらず底の読めないところはあるけど。それでも、少しずつ、ロイの事を知れていってる気がする。」
私が笑顔で話すことを、ハルはただ微笑んで聞いてくれた。
「ねぇハル、まだあの薬を飲んでるの?」
「―――――はい。」
「あれは、ただのビタミン剤よ?」
「…………そのようですね。」
「??そのよう、って―――――知ってたの………?」
「――――――お嬢様が、“ただのビタミン剤”に変えてくださったのですよ。」
ハルはまるで私が魔法使いかのような不思議なことを言って、ふふっと笑った。
「私は、きっともう大丈夫です。―――――ご心配を、おかけしました。」
「………そう、それなら……良かった………。」