第32章 佞悪 ※
屋敷に戻ると、ハルが庭先に出て太陽を浴びているのが見えた。
「ハル!随分気分が良さそうに見えるわ!」
「お嬢様。」
私を見て、ハルの側についていたアンが気まずそうに一歩下がって会釈をした。
「………アン、ありがとう。」
「………滅相も……ございません………。あの、ロイ様は………。」
「もう大丈夫よ。毎日悪態と我儘ばっかりで元気いっぱいだから。」
「――――――良かった――――――………。」
アンは眉を寄せて涙を拭った。
衝動的だったとはいえ、人を刺した。
その事実は、彼女自身をもどれだけ傷付け、苦しませているのだろう。早く、彼女の心が癒えればいい。
「ロイも、大事にはしたくないだろうから………、この屋敷を、ハルを、これからも宜しくね。」
「はい………っ………慈悲深いお言葉、痛み入ります………っ………。」
「アン、少しハルと二人にしてくれる?」
「はい。」
アンが去ると、私はハルの隣に腰かけた。定期的に帰って来ては、ハルにロイとの話をするのが恒例になっていた。
「………ロイ様の様子は、どうですか?」
「毎日我儘ばっかりで大変よ………。今までの我儘を全部ぶつけてきてるかんじ……。」
私が不満を零すと、ハルは笑った。
「我儘とは、どんな?」
「あれが嫌、これが嫌はもちろんだし、ケーキ作ってだの、本を読んでだの―――――――抱きしめて、愛してるって言って、だの………。」
「あらあら、まるで子供ですね。」
「そうなの。――――――でも、嬉しい。」
「…………。」