第32章 佞悪 ※
そしてもちろん、リヴァイさんにも手紙を書いた。
書きたいことが、言いたいことが溢れ出てどうにもまとまらず、拙い文章になっていたと思う。
会いたい、声が聴きたい、抱きしめて欲しい、この胸の内全てを文字にすることは到底できなくて、ただ一言、文末に“愛しています”と添えた。
リヴァイさんのことだ。エルヴィン団長の片翼を担って作戦を理解し、最善の活躍をするのだろう。
―――――どうか、どうか無事で。
ペンを持つ手が、少し震えた。
ある日、毎日届くたくさんの封書の中に、一通の手紙を見つけた。懐かしいそのサインは、母からのものだ。母にもロイが怪我をしたことを知らせていた、その返事が来たんだ。
封を開けて手紙を読むと、ロイの様子を気にかけ、心から心配している様子が見て取れる。ただ、『ナナがついてくれているなら安心だわ。ただどうしても今はそこに行けないの。許して。ロイをお願いね。』と記されていた。
「ねぇロイ、お母様が、くれぐれも安静に、早く良くなって、だって。」
ロイの表情が凍る。ここ数日、そんな冷たい顔を見せたことは無かったのに。
「――――――僕に母はいない。」
そう一言残して、また布団に潜り込んでしまった。
そりゃ、会いに来てほしいのかもしれないけれど。そうやすやすと来られる距離でもないし、お父様の病院にお母様が来ることがどんなに難しい事か想像すればわかるだろうに。
全く子供なんだから、と私はロイの身体をぽんぽんと撫でた。