第32章 佞悪 ※
珍しく文句を言わず、花びらにそっと手を伸ばした。
「……姉さんの瞳の色に、よく似てる。」
「……私の瞳の色なら、ロイの瞳の色も同じでしょ。―――――これ、エミリーからだよ。」
花びらを撫でるロイの手が、ぴた、と止まった。
「……言ったの、エミリーに。」
「言ったわ。散々エミリーの好意を利用したんだから、お見舞いの品くらい素直に受け取りなさいよ。」
「…………散々利用されたくせに、お見舞いの花とか………お人好し過ぎて、反吐が出る。」
ロイは苦い顔をして、ふてくされたようにベッドの中に潜り込んでしまった。
エミリーのことを、何とも思っていないはずがない。エミリーのあの一生懸命さと、ロイへの想いはきっとロイ本人にも何かしら影響を及ぼしているに違いない。私はそう信じて、ロイが怪我をしたことをエミリーに手紙で知らせていた。
リンファとサッシュさんにも手紙を書いた。
おそらくまだしばらく帰れないから、二人は心配するだろう。現状報告と、必ず戻るからと意志を込めて。
リンファからの返事には、リンファとサッシュさんがリヴァイ班という特殊な班で別行動をするという内容が書かれていた。エルヴィン団長が言っていた、この奪還作戦に別の意味を持たせるための班がおそらく、リヴァイさんの班なのだろう。
私は念のため、誰にもこの話が漏れないようにリンファからの手紙を焼いた。