第32章 佞悪 ※
「この花嫌い。違うのにして。」
「ポニーテールはやめて、髪はおろしていて。」
「おやつが食べたい。ケーキを作って。」
「僕の名前はもっと甘い声で呼んで。」
「――――――ちょっとロイ、いい加減にしなさいよ。それにもう随分治ってるんだから、少しはリハビリも兼ねて自分の事は自分で―――――――。」
「抱きしめて、愛してるって言って。」
「…………。」
ロイを嗜めようとすると、決まってこの我儘を言ってくる。ほぼ毎日、私はため息をつきつつも弟の身体を強く抱きしめて、望む通りの言葉を紡ぐ。
「―――――ロイ。愛してる。」
「――――――うん。」
冷たい印象のロイの身体は当たり前だけれど温かくて、心も同じように温かみを失っていないのではないかと期待する。
私の身体に縋るその様子はまるで小さな子供のようで、この身体が小さかった頃にもっとこうしていればよかったと、過去を取り戻すように弟を強く抱きしめた。
心を少しずつ開いてくれていっているのがわかる。
でも、それでもハルに飲ませている薬については、一切話してくれなかった。
ある日、ロイ宛に花が届いた。
その花をロイの部屋に飾ると、ロイは少し微笑んだ。
「あれ、ロイはこの花が好きなの?アイリスだね。」
「………うん。」