第32章 佞悪 ※
ウォール・マリア奪還計画まであと数日。
私は依然としてオーウェンズ病院でロイの看病をしている。
時折ハルの事を見舞うが、随分顔色が良くなって来ている気がする。アンの話だと、食事も少しずつ増えているようだ。
だが、相変わらずあの謎のビタミン剤を飲み続けている。
私はエルヴィン団長に現状を報告する手紙を書いていた。返って来た返事を見て驚く。
“実は君を作戦に出さないことは、最初に決めた決定事項から変わっていない。君を隊に入れたのは、エミリーからロイ君にその情報が行きわたっている証拠を掴むためのフェイクだ。無理に戻らなくて良い。納得いくまで、弟君と向き合って来るといい。”
―――――あの急な編成には確かに違和感があった。
なるほど、やはりエルヴィン団長には敵わない。全て想定内というわけだ。私は残念な気持ちもあったが、心のどこかでオーウェンズ家との関係を修復することに専念できると安心した。
「これ、食べたくない。」
「食べなさい。子供じゃないんだから。」
「嫌だよ。だいたいこのくらい食べなくてもさ、死にはしないよ。食べたくないものを無理矢理食べるほうがストレスだと思うけど。」
ロイはまるで子供のように我儘を言う。
今までロイが我儘を言うところなんて見たことがなくて、最初こそ付き合っていたものの、度を増していく我儘ぶりにどっと疲れが押し寄せる。