第31章 罪
重く混濁した意識の中で、柔らかい手の温もりを頼りに僕は少し目を開けた。僕の手を両手でしっかりと握ったまま寝息を立てる姉さんの姿があった。
―――――お人好し。
僕がライオネル公を唆して、連れ去られ、酷い目にあったはずなのに。
僕が死ねば、全て丸く収まって、晴れて愛する人のところへ帰れたのに。どうせこの人が僕の事を助けたんだ。
――――――愛してくれないなら、側にいてくれないなら、いっそ殺してくれたらよかったのに。
僕は姉さんの髪をそっと撫でた。僕と同じ、柔らかな白銀の髪を。
「………ロイ………?」
姉さんが目を開け、僕を見た。その顔は、さぞかし冷え切ったものだろうと思ったのに。
「っ……ロイ………!!」
端正な顔立ちをぐしゃぐしゃにして、姉さんは泣いた。
「―――――ひっどい顔。」
「……っ……な、によ……っ、どれだけ……っ、心配っ………!」
「僕が死んだ方が都合が良かったはずなのに。バカじゃないの。」
「死なせないわ。あんたの性根を叩き直すまで。」
「――――――もう帰りなよ。屋敷に一人で、ハルが待ってるでしょ。」
「……いいの。ハルの事は………アンが、見てくれてるから。」
「………アンが?」
「雇ったの。私が。」
「………オーウェンズから賃金は出さないよ。」
「いいわよ。私が個人的に雇ったんだから。私が払う。」